前橋地方裁判所 昭和40年(わ)20号 判決 1965年6月01日
被告人 船津藤太郎
大一二・三・七生 衣類行商
主文
被告人を懲役五年に処する。
なお未決勾留日数中一〇〇日を右の本刑に算入する。
理由
(被告人の経歴と本件犯行に至る迄の経緯)
被告人は衣類行商人を父として前橋市内等に生育し小学校卒業后酒屋に年期奉公をしたり父親の行商の手伝等をするうちに昭和一四年以后窃盗罪にて五回実刑を受け昭和二九年七月には暴行罪等により罰金一五、〇〇〇円に、同年一〇月には傷害、横領罪により当裁判所において懲役一〇月に又、同三一年二月には前橋簡易裁判所において賍物牙保罪により懲役一〇月および罰金四、〇〇〇円に、同年一二月には当裁判所において傷害、恐喝罪により懲役一年に、同三三年四月には同裁判所において同罪により懲役一〇月に、同三四年一二月一六日同裁判所において威力業務妨害、恐喝、横領、詐欺、暴行、逮捕、誘拐、脅迫等の罪により懲役五年に各処せられ同三九年九月六日府中刑務所を出所后前橋市内に帰来し、単身肩書アパートに居住し衣類行商等をしていたもので、昭和三九年一二月二二日午后一〇時半頃同市紺屋町所在のバー・サンチヤゴに赴むき飲酒した后同店ホステス境野澄江(昭和二〇年一月三日生)等を連れて同市諏訪町所在の「山平寿司」に行き同所で更に飲食物を注文し飲食した上、被告人は右境野を翌二三日午前〇時半頃同店より連れ出し被告人の肩書アパートに連行したものである。
(罪となるべき事実)
被告人は常習として、
一、昭和三九年一二月二三日午前一時三〇分頃前橋市清王寺町二七〇番地松英荘アパート内の自己の居室において、その場に連行してきたバー・サンチヤゴ・ホステス境野澄江(昭和二〇年一月三日生)に対し「帰りたいか、帰つてもいいぜ」といい、同女が部屋から出ようとするや、「帰れるものなら帰つてみろ、そんなに俺を甘い人間だと思つているのか」などとどなりつけ、同室内の洋服ダンスから日本刀を取り出し、同女の面前でこれを畳の上に突き立てるなどし、同女をして、その身体に何らかの危害を加えられるかも知れないものと畏怖させ、もつて兇器を示して人を脅迫し、
二、同日同時刻頃、右同所において右境野澄江を連れ戻しにきた坂本菊三(昭和六年一一月一四日生)に対し、所携の右日本刀で切りつけ、縫合三〇数針を要する左上腕部切割(全治迄約四五日)を負わせ、もつて刀剣を用いて人の身体を傷害し、
たものである。
(累犯前科)
被告人は昭和三四年一二月一六日当裁判所において威力業務妨害、恐喝、横領、詐欺、暴行、逮捕、誘拐、脅迫の各罪によつて懲役五年に処せられ、当時その刑の執行を受け、同三九年九月六日その刑を終了したものである。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人の判示(一)の所為は暴力行為等処罰ニ関スル法律第一条罰金等臨時措置法第三条第一項第二号(情状により所定刑中懲役刑を選択する)に、判示(二)の所為は暴行為等処罰ニ関スル法律第一条ノ二第一項に、各該当し更に以上の両所為は常習であるから一罪として同法第一条ノ三前段に該当し、一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから刑法第五四条第一項前段第一〇条によつてその最も重い判示常習傷害の罪の刑によつて処断すべく、なく判示の如き累犯前科があるので同法第五六条第五七条により再犯の加重をした刑期の範囲で被告人を懲役五年に処する。未決勾留日数については刑法第二一条によつてそのうち一〇〇日を右の本刑に算入する。
訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項但書によつてその全部を被告人に負担させない。
以上の理由によつて主文の通り判決する。
(裁判官 藤本孝夫)